たしか2014年の夏だったと思う。
当時24歳で独身、社会人としてもぺーぺーだった私は、先輩に連れられて初めて夜の世界に飛び込んだ。
(※現妻と出会う何年も前の話であることは、最初にお伝えしておこうと思う)
ネットの情報や友達との話の中でしか聞くことのなかった”闇”の場所、キャバクラ。
それこそドス黒いイメージがこびりついていたわけだから、少なからず恐怖感があった。
が、いざ店内に入ってみると…そこには恐怖の「き」の字もない。
ゴミ1つないキレイな空間に、気分が盛り上がってくる薄暗い照明。
またきらびやかなドレスに身を包み、香水の良い匂いを全身に巻いたキャバ嬢が確かに実在していた。
そして私は1人のキャバ嬢と出会ったわけだが、なぜか彼女とのやりとりだけは、今でも心のダッシュボードの片隅にしまわれている。
細かい部分はぼやけているものの、あのひと時はなぜか強く印象に残っている。
「私さ、歌手になりたいんだよね。」
少し照れくさそうにそう言うと、彼女は「〇〇っていう名前なんだけど」と、自分のアーティスト名を私に教えてくれた。
へぇ~そうなの!
そのときは、キャバ嬢のポテンシャルが一般人のそれとは比較にならないほど高いことを知らなかったから、少しテキトーに返事をしてしまった。
でも彼女の「ちょっと見てみてよ」という誘いに乗り、その場でスマホを取り出して調べてみたら、たしかに名前がある。
また彼女は、今度は目を輝かせながら続けざまにこう言った。
「今度、CDが発売なんだ」
正直、というかフツーに驚いた。
彼女は、私のとなりに座っているキャバ嬢は、実はすでにアーティストだったのだ。
「歌手になりたい」と言っていたから、私はてっきり修行の身かと思っていたのだけれど…
それはどうやら違かったようで、正確には東京ドームでライブを決行できるくらい「有名な歌手になりたい」ということだった。
なぜかは忘れてしまったが、私はそれ以上深く突っこんだ質問はしていない。
彼女も彼女であまり話を広げようとはしていなかったと、今になって思う。
しかしながら彼女のジャンルであるカバー楽曲の話(「このアーティストいいよね!」みたいな)になったとき。
とある曲をスッと歌い出した瞬間、私は彼女が”歌がうまい人”ではなく”プロの歌手”であることを理解した。
誇張表現ではない。
本当に、本当にうまかったのだ。
彼女からしてみればただ口ずさんだだけかもしれないが、透き通っていて、かつ気持ちがこもったあの歌声は「すごい」の一言に尽きる。
あのとき、「なんでこの子は、この世界(キャバクラ)にいるんだろう?」と思ったのは言うまでもない。
それとも彼女のような、夢へ向かう女性の集う場所が”キャバクラ”なのだろうか。
もちろん、一流アーティスト(歌手)への扉を開けられるのはごく一握りの逸材だけだ。
「上には上がいる」とはよく言ったもので、努力だけでは突き抜けられない業界なのは、さすがの私でもよく分かる。
だから「スタート地点まで42.195km」みたいなジョークばりに、彼女もまた扉への順番待ちで。
その間の食い扶持として、少しでもキャッシュになる夜の世界に属しているんだろうけども…。
まぁそれでも、並みの歌い手よりも素晴らしい歌声を持っていたのは事実だったし、
何よりも、何よりもだけど・・・自分の夢を語る彼女の姿がステキだった。
記憶に片隅にでもしっかり残っているのは、だからなのかもしれない。
「歌手になりたい!」なんて、少なくとも私の場合は恥ずかしさが勝る。
並みとは違う、プロの仕事
さて、私は冒頭で「なぜか彼女とのやりとりだけは心のダッシュボードの片隅にしまわれている」と述べたわけだけれど。
彼女がアーティストであったのもそうだが、同時に、キャバ嬢としての仕事を全力でやり遂げていたことも含まれている(と思う)。
彼女の仕事ぶりは、それ以降に出会った30~40名近くの嬢よりも抜きんでていた。
常に話し相手をリスペクトする姿勢と、人懐っこくて、愛嬌のある性格。
自然のものか、仕事用に作ったものか、鈍感な私には推測に難いが…とにもかくにも客である私に一切の”ビミョー”を感じさせない仕事ぶりだった。
お酒が切れたときに「次、どうする?」というやりとりはみんなするけれど、自分の夢を語って、自分の話で客を笑顔にするという技術には言葉が出ない。
高度すぎて、接客・サービス業に勤める私でも同じような成果を出せるとは…とうてい思えない。
それほどに、彼女はプロだった。
歌のプロであると同時に、キャバ嬢としても立派なプロだった。
きっと、歌と同じくらい「好き」で情熱をもって臨んでいたのだと思うと、彼女には尊敬の念を送らずにはいられない。
彼女は今、夢を叶えた先にいるのだろうか
あれから6年が経った。
私の記憶が正しければ、彼女は今25歳くらいで、まだまだ可能性に満ち溢れている年齢だ。
果たして彼女は、かつての夢であった有名な歌手になれただろうか?
私が感動したように、たくさんの人を大好きな歌で喜ばせることができているだろうか?
それとも、今も尚あの箱の中で、きらびやかなドレスを着ているだろうか?
はたまた別の仕事をしていたり、結婚したりしただろうか?
彼女の今は分からない。だけど…
あのとき私が感じた彼女の内面からあふれ出る魅力は、絶対に落ちぶれることはないのは知っている。
だからどんな風になっていようとも、”ステキな人”として彼女のことを忘れはできないし(私の潜在意識にストックされている!)、遠くから応援を送り続けるつもりだ。
あのときのことは私のよき思い出として、しまっておこう。
そして彼女には、思い出すたびに「ありがとう」とつぶやこう。
夢を持つことはカッコイイが、夢を語ることはもっとカッコイイ
そんなことも、学ばせてもらったのだから。
そんな感じで、終わろうと思う。
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カレンという名前でしたか?
それが…覚えていないんですよねぇ…。
すみませんm(__)m